記憶の義父
「いま思い出したら、娘の私をちゃんと育ててくれてたんだよ、涙が出ちゃうよ」
妻は義父の思い出を語る。相づちを打つも、私が知る義父は、パチンコ好きで荒っぽいはぐれ者だった。
趣味の釣りをきっかけの漁師稼業で、いかつい顔とごつい体躯。放蕩息子でハチャメチャな人生を送って来ている。長距離の大型特殊トラックで運転手だったのを、大事故を起こし漁師に転身と、理解を超えた義父である。
結婚の申し込みに出向いた時、無言の圧力に接しビビったものだった。返事の代わりに茶碗酒を突き出し「吞め」。後で聞けば、気に入った相手にしか酒は進めないという。それからも顔を合わせるたびに肝を冷やした。
そんな義父に育てられたのに、妻は常識人。大学まで行かせて貰っている。何かにつけて反発した妻も、亡き義父を偲ぶいま、ようやく娘を守る親の愛情の深さに気付いたらしい。
実は義父の死に目に立ち会ったのは妻ではなく、婿の私。脳梗塞を繰り返した末に亡くなった。
「とうさん、あなたに似てた気がする」妻の言葉に、ドキッとする。
「本当は優しかったのよ。不器用だから素直じゃなかったけど。まともな人生送れなかったのに、娘相手には、きちんと父親やってくれたんだ」
不器用で優しい家族思い。確かに似ている。
病院に義父を見舞ったときに見せた、人が変わったような優しい表情。あれは義父の本性だったんだと振り返る。似た者義父と婿、ゆっくり話をする機会があったら、義父のいいところを見つけられたはずである。
(お義父さん、もう取り返しはつかないけど、感謝してます。ボクには勿体ない妻を、しっかりと育てて貰ったことを。批判してばかりだった妻は、あなたという父親がいてくれたからこそ、しあわせが掴めたと気づいています。改めて「有難う」といわせて貰います)

義父の遺影に手を合わせる妻の目が潤んでいた。
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